2018/4/16

 


 


It’s Alright, Ma (I’m Only Bleeding)

 
 タケイは悩んだ末、今回の修学旅行の行き先を、二〇一四年上半期の地中海東岸地域に決めた。地中海をまわるのはこれで二度目になる。
「なにも中学のときとおなじところを選ばなくてもいいじゃないの。どうして流行りの火星や白亜紀とかにしないのよ」
 母親プログラムがディスカッション・モードを起動させ、三六時間ぶりの世代間トークセッションに持ち込もうとしていたが、タケイはその誘いに乗らなかった。パススルー・オプションの利用可能回数はもう残りわずかだったが、三日後の社会奉仕活動でベストスリーの成績を維持すれば、大量ポイントを一挙に獲得できる。それをわかっている彼は、躊躇なく回避権行使のサインを送った。タケイのなみはずれた要領のよさは、在籍校でもポジティブ評価対象と見なされている。この三年間だけでも、学年ベストスリーに一六回も選ばれている彼にとって、毎月末の社会奉仕活動はポイントの荒稼ぎ場となっていた。
 たしかに、出向くのはおなじ場所ではあるものの、降り立つ時代は前回よりだいぶ遡った一〇〇年も昔なのだから、なにもかもが一緒というわけではない。それに時代の異なるおなじ場所へおもむくことは、双方を見比べて当該地域社会の変遷を具体的かつじかに確認できるというメリットもあるはずだ。
 こういう公式回答を、タケイはあらかじめ用意してアフター・ディナータイムに臨んだのだった。が、この夜間のファミリー・コミュニケーションは通算二六分五六秒の時点で打ち切りとなった。当の回答を口にした場合、ポイント加算の有効範囲は意外にもわずか三六パーセントしかないとの予測結果が出たので、時間の無駄だと彼は判断したのだ。
 タケイが中二だった二年前まではまだ、リアルタイム視察が旅行形態の主流だった。過去と現在の時空間を行き来する観光旅行はたいへん高価で年齢制限なども設けられていたため、たとえトリプルSクラスの超進学校といえども、修学旅行での利用許可はおりなかったのだ。それが昨年の規制緩和により、国内だけでも参入業者が三社に増えて値下げ競争もはじまったことなどから、今後は客層の大幅な拡大が見込まれていた。そうしたなか、国内最大手の旅行代理店が、トリプルSクラス校のみに向けた特待生限定スペシャル・パッケージツアーとして、過去=現在間の時空往来修学旅行を特価で提供するサービスを開始したのだった(これにはじつはからくりがあり、スーパーエリート育成という国家戦略の一環として、学業優秀者の見聞を広めることを目的に、国が業者に補助金を交付し代金の不足分をまかなっていたのだ)。
 幸運にも、タケイは当のサービスを受けられる最初の世代となった。一五名のクラスメートのうちの大多数と同様、人気の高い火星や白亜紀もいったんは検討に加えたものの、最終的にはシリアと呼ばれる地中海東岸の一帯を彼は目的地に選んだ。二年前の修学旅行とおなじ行き先に決めたのは、ひそかな理由があってのことだった。今から一〇〇年前に当たる、二〇一四年三月頃の同地へと向かい、ひとりの少女を探し出せないものかと彼は考えていたのだ。
 


 その少女をタケイが最初に知ったのは、三年前の一二月のことだった。
中一の夏休みに参加した農村ボランティアの受け入れ集落で、長らく放置されていたゴミ屋敷の清掃作業をタケイは手伝った。だれもやりたがらない仕事を進んで引き受けたのは、ボーナスポイントの獲得のほかにも、希望する報酬を得られる当てがあったからだ。
 彼のお目当ては、情報機器の廃品だった。それなりの大きさの家屋であれば、たいていは納戸か収納家具のなかに休眠機器がひとつかふたつおさめてある。郊外地域や過疎化した旧市街でなんべんも美化活動にたずさわってきた経験上、タケイはそのことを熟知していた。製造業者や廃棄物処理業者への引き渡しを、責任もっておこなうことを証言ファイルに記録し、引き取りの認証を無事取得した彼は、喜んでゴミ屋敷に突入したのだった。
 この日は予想した以上にたくさんの収穫があった。家主や家人の使い古しか、あるいはがらくたをどこかよそから運び入れたのか、年代物のタブレット型端末やラップトップパソコンとかつて呼ばれていた骨董品が屋内のあちらこちらに転がっていたのだ。種類にも製造時期にも稼働期間にも相当の幅がある品々がそろっており、コレクターが立ち会っていたら、貴重なお宝がまぎれこんでいるぞと驚喜していたかもしれなかった。
 古道具や発掘品のコレクターではなく、それらポンコツからのデータサルベージを趣味にしているタケイは、清掃作業の合間にさっさと機器の解体もおこなってしまった。諸々のパーツは廃棄物回収ケースに仕分けし、取り出した記録媒体のみを彼は自宅に持ち帰った。どれも完全に壊れていて、データの読み出しは一見不可能に思えるほどの状態だが、サルベージ趣味にはまる者にとってそんな障害は難関でもなんでもなく、むしろ感興をそそる通過点でしかなかった。当分のあいだは、暇を持てあますことがなさそうだと張り合いを感じてさえいた彼は、期待を超える成果に満足し報酬系が六八ポイントも活性化されていた。
 運命的な出会いが起こったのは、宵闇の訪れがいっそう早まり、クリスマス商戦の本格化したマーケットエリアで、多幸感あふれるイルミネーションが解禁となる頃のことだった。サルベージに成功した動画ファイルのうちのひとつに強い興味を抱き、珍しくタケイは趣味を中断してその内容をくりかえしチェックしたのだ。サイズは二〇・八メガバイト、再生時間は一分三四秒とごく短い実写映像である当の動画は、“Most Shocking Second a Day Video”というファイル名がつけられていた。
 
 


 
 

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